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桜ほど不細工な木はない。 脂肪太りした太ももが野放図に伸び放 題といった幹から枝が分かれて、だら しなく間伸びした枝先が幾分垂れたり しながら空を覆うように広がる。 枝を切れば腐りを生じ、まだ若いうち から無数に気味悪く細枝の密集した塊 りである天狗巣病にかかるものも多く、 花がさっさと散ってしまえば後はずっ と秋の葉が落ちてしまうまでアメリカ シロヒトリとの闘いである。 |
| アメリカシロヒトリというのは毛虫のことで幼虫の頃は全身を無数の白い毛に覆われている のだが、大きくなってくくると毛が抜け落ち、ゴリラの指のように光沢のある背・腹を露出 させ動き回るのである。幼い頃 住んでいた家には、裏庭の青いトタン屋根の倉庫に覆いか ぶさるように大きな桜の木があった。 網戸を開けると風にのっていつも奴らが部屋に舞い降りてくる。 親父が時々、白いツンとした匂いの消毒液の入った一升瓶に小指ほどもある奴らを割箸でと って入れていた。 瓶の底に無数に沈み、折り重なる黒い指、消毒液の匂い…。 今年もまた桜が咲いている、咲いていた。 散り際のいさぎよさを昔は、軍隊の教育に利用した…なんて話しも聞くが確かに今年も咲い ていたかと思ったらもう散っていた。 それは淡く色づき、薄紅色で咲き始め、白くなって散っていく。 桜の花を木の下から見る。 桜の花ごしに春の空を見る。 淡い白と、点在する紅の隙間から垣間見える霞みがかったブルーの遠い空。 目の前を通り過ぎていく重さと未練と音のない春の花びら。 忙しく回転しながら、空気の層をなめるように落ちていき、目に春の空が戻ったとしてもあ くまで静寂。 この花は、あまりにも頭の中に入り過ぎるのかもしれない。適当に眺めて下にゴザを敷いて ドンチャン騒ぎする方がいいのかもしれない。 緑少ない大地に出現した淡いピンクの連なりを遠くから見て、いつまでも見て、明日が見え ないから一片も逃さぬように見て、いつもそう思う。 桜ほど不細工な木はない。 しかし、桜の花ほど胸を打つ花もない。 またやってくる暑い、暑い苦しい夏と、冬を乗り越えたらまた会いましょう。 2005年 4月 |
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